焼津市が抱える複雑な社会課題
静岡県焼津市。1889年の東海道本線が開通し焼津駅が開設されたことにより、農水産物の商圏が拡大され生産地として大きく繁栄するようになりました。以来、全国有数の水揚げ量を誇る焼津港から供給されるマグロ・カツオといった豊富な海の幸を特色に、多くの食品加工会社が拠点を置く地域です。また、ネギトロやツナ缶といった水産加工品の返礼品を取りそろえるふるさと納税額が上位にランクインするなどの成果も上がっています。
しかしながら、地域の賑わいや生活に目を向けると、商店街はシャッター街となってしまい、若者の年代が地域外へ流出するなど、さまざまな課題が複雑に絡み合っており、解決が困難な状況となっています。すなわち、焼津市においては水産加工を中心とした産業の活性化と地域の生活を含むまちづくりの連動及び両立が喫緊の課題となっています。
この様な社会背景を踏まえ、2023年に株式会社スマートホテルソリューションズが焼津の旧漁具倉庫を活用した交流拠点「焼津ポーターズ」を新たに整備し、地域住民、地域産業、地域の若者、そして外部から来られる関係人口が集う、新たなコミュニティ拠点の運営をスタートしました。
サトヤマカイギはいち早くこの「焼津ポーターズ」との連携をスタートさせ、サトヤマミライカイギメンバーとの連携を踏まえ、2023年3月にはプレオープンイベントとしてのアイディア創出ミートアップイベントを開催しました。
まちづくりに求められるデザイン力を探求する山中祥平の挑戦
大学で建築を専攻する山中祥平。地域に脈々と受け継がれる伝統や文化に強い関心を持ち、その文化的なリソースが現代社会の価値観によりどんどん失われていくことに強い危機感を抱いている。しかしながら、単なる伝統文化を維持保存するだけでは地域の持続性が失われてしまう。山中は、そういうジレンマの中で、指導教員からの勧めで、焼津市で開催されるミートアップのイベントに参加しました。
焼津市がどういう地域で何が特色であるかもわからないまま、ミートアップに参加した山中でしたが、その場には、地元の高校生、地域の水産加工会社、自治体職員、地元住民と多種多様な方々が集い、お互いをリスペクトし合いながら短時間ではあるものの、一つの解決策を見出そうとしている姿を目の当たりにし衝撃を受けました。
自分が悩んでいた背景には、自分は何ができるか?自分がどう行動するか?という点があまりにも強く、もっと多くの方々と繋がり、一緒になって取り組んでいくということが重要になると気づきました。もっと仲間を作っていくことが重要であると。その気づきをきっかけに、山中祥平のサトヤマミライカイギへの参画と、焼津市でのプロジェクト創出の挑戦がスタートします。
焼津中央高校と連携したプロジェクトの発足と出汁ラボの創出に向けて
まず、山中がとった行動が、プロジェクトメンバーを募集するために、ミートアップの場でつながった、焼津中央高校の生徒さんとのコラボレーションです。焼津ポーターズを拠点にデザインワークショップを開催。数名の生徒が集まる中で、メンターからのサポート受けながら、そもそもデザインとは?ということを高校生と共に学び、焼津ポーターズのまだ使用されていない空間を題材に、新しい価値のある空間へとアップデートするワークショップを開催しました。旧漁具倉庫の一角を映画館へと変化させようとする生徒や、お絵描きした石を積み上げてポーターズのエントランスをデザインしようとする生徒、多様な価値が短時間で次々と創造され形になっていきます。ずば抜けたアイディアを創出し…ということではなく、それぞれが自由に創造し創造されたものが新たな繋がりや次の創造へと繋がる。この連続がまちづくりに必要であると確信すると共に、プロジェクトを推進するメンバーの骨子が固まりました。
山中が常に大切にしてきた地域の特色を活かすというまちづくりを自身も創造していくために、山中は「出汁」にフォーカスを当てます。カツオ節の原材料は豊富にビジネスとして展開されているのに、出汁文化の雰囲気が地域から伝わってこない。プロジェクトの第一歩として、その自身が感じ取ったことを高校生とも共有をすべく、生徒を石川県金沢市へ招き、金沢市内の出汁文化を探求する調査プログラムを実施しました。異なる地域に住むお互いが相互に地域の文化について深掘りする機会は、お互いの創造性を高めていく良い機会となりました。
現在、山中は高校生と共に「出汁」をテーマとした出汁ラボの立ち上げに取り組んでいます。そのラボは、若者による焼津発の「出汁」のブランド化はもちろんのこと、地元企業と若者を繋ぐ重要なまちづくりの拠点として確立していくことを目指し取り組んでいます。サトヤマカイギとしても、創出されたプロジェクトに参画する若者が焼津市の産業とまちづくりにデザインで積極的に寄与できるよう今後も継続的にサポートしていきます。