白峰地域が抱える複雑な社会課題
一般社団法人サトヤマカイギの拠点でもある石川県白山市白峰地域。養老元年(717)に泰澄大師によって牛首と呼ばれる現在の白峰集落の中心となる村が開かれたとされています。手取川ダムのさらに上流にある山村ではありますが、築100年以上の古民家が密集して町場のような美しい景観が保たれ、国の重要伝統的建造物群保存地区にも指定されています。また、白山手取川ジオパーク(2023年5月に世界ジオパークに認定)、白山ユネスコエコパークの認定地域の中に位置し、大地(ジオ)と自然(エコ)との関わり、そして、その中で生きている白峰の人々の生活が凝縮している地域でもあり、四季折々のお祭りが開催されるなど自然・文化共に地域の手によって古くから大切に受け継がれ残されています。 しかしながら、人口減少、空き家、観光産業の衰退、少子高齢化、後継者不足等様々な問題が複雑に絡まりあって、地域の中で地域住民が地域のリソースを活用し新しい解決策を打ち出すことはとても困難な状況となっています。何か抜本的な変革が今まさに求められています。
サトヤマミライカイギプロジェクトリーダー藤澤理央の挑戦
建築を専攻する藤澤が白峰地域と出会ったのは、昨年の3月。白山麓で取り組まれる大学のプロジェクトに参画したことがきっかけです。その時訪れた白峰地域の独特の時間の流れ方に、なんとなくほっこりとした安らぎのような居心地の良さを覚えました。古民家が集積する風景はもちろんのこと、地域のあちこちで聞こえるミンジャと呼ばれる水路の音や、時折みかける地域のおばあちゃん同士の井戸端会議、これらすべてがとても貴重で大切なものなのではないか?と考えるようになりました。昨年の夏休みの期間はすべて白峰地域で滞在することを決断。地域に溶け込む一方で、この素敵な白峰地域をどうやって持続させていくのか?地域の方々にとって親しみやすくも根本的な解決策が必要になると感じ、サトヤマミライカイギに参画しました。
藤澤は、地域での滞在を通じて価値と感じた「地域の日常」、そして、すべての地域の方が大切にしている「お祭り」に注目。地域全体を対象に地域の豊な自然や文化をリソースとした芸術祭をまちづくりの観点からREデザインすることで、持続可能な白峰を実現する地域のパワード引き出すことができるのではと。サトヤマミライカイギメンバーの藤澤としての明確なビジョンがセットされました。
藤澤が描く白山市白峰地域の未来のあるべき姿
藤澤は、これまで培ってきた地域との関係性や地域を深掘りしてきたリサーチの結果を踏まえ、白峰芸術祭のプロジェクトリーダーとして事業を推進。自らもアート作品を手掛ける中、サトヤマカイギメンターとの継続的な壁打ちや、メンターから紹介される様々なアーティストや他の学生プロジェクトとの調整を繰り返し、8月25日~27日にかけて見事白峰芸術祭の開催を実現しました。空き家や空き地の新しい活用の在り方に加え、地域住民にとっての何気ない日常や風景にアート的要素を加えていくことで短期的ではあるものの、地域の価値を高めると共に、いわゆる単なる課題解決ではなしえない地域全体のパワーを生み出すことを証明しました。また、制作した芸術祭のマップは白峰観光協会から高く評価され、公式のマップとして認められました。
制作過程では地域の方から「何やってるの?」と不思議がられることもしばしばありましたが、コンセプトを伝えると、地域にまつわる新たなエピソードを満足げに教えてくれるお年寄りも。制作過程のプロセスそのものが地域の参画を生み出すといった新たな気づきも得ることができました。
次年度は、そのパワーを継続的に導き出すためのアートの要素が組み込まれた都市計画をソフト・ハードの両面から提示し、地域のまちづくり会社「株式会社YOSITAI」の事業計画に組み込むことを計画しています。
藤澤の取り組みが、過疎化が進むも豊かな文化を有する地域ならではの持続可能なまちづくりのモデル事業の創出へと繋がるよう、次年度以降もサトヤマカイギとして継続的にサポートしていきます。