事業概要

一般社団法人東海若手起業塾実行委員会

事業名:Social Innovation Project Co-Do(コドー)

事業の概要

【事業背景】
IT革命の進展に伴うソフトウェア関連産業の重要性の高まりを受けて、2000年度より経済産業省にて「未踏ソフトウェア創造事業」が開始された。2008年度からは若手人材の発掘・育成を重点化し「未踏IT人材発掘・育成事業」(以下、「未踏事業」とする)が実施された。本事業は突出したIT人材の発掘と育成を目指すものであり、これまで2,000人以上のイノベーション創出する突出した個人の発掘・育成を行い、民間企業・アカデミアへの就職、あるいは自ら起業を行う者などを輩出してきた。

また、2022年6月、岸田文雄政権下で「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」が閣議決定され、スタートアップの強化が重要な政策の一つとして位置づけられた。この実行計画の中で、「優れたアイディア、技術を持つ若い人材への支援制度の拡大」について言及されており、未踏事業の規模を拡大し、IT分野以外にも優れたアイディア・技術を有する人材を選抜し、支援する制度の重要性が述べられている。

20年以上にわたって日本のイノベーションを牽引する人材を輩出してきた未踏事業ではあるが、対象者は日本国内に開かれているにも関わらず、実際の参加者は首都圏を中心とした層に限定されている。日本全体としてイノベーションエコシステムを形成し、より多様な若手人材の発掘・育成を推進していくためには、地方拠点においてもイノベーションを起こす人材を発掘・育成することが求められる。

「未踏的な地方の若手人材発掘・育成支援事業費補助金」を活用して実施を予定する本事業では、未踏事業がリーチしきれていない東海地域の人材を主な対象として、当地域において知見・実績のあるPM/メンターの伴走支援を通じて、地方の有望な若手人材が多様なイノベーターとして活躍するエコシステムを形成するための起点となることを企図して実施するものである。

【事業目的】
我々が提案する東海地方において多様な若手人材を発掘・育成するエコシステムの形成にあたり、既存の未踏事業と全く同じプログラム内容であってはならないと捉えている。全く同一のものを目指していては、参加対象層にとって結局は「未踏事業に申し込めば良い」ということとなり、本事業の本志とする「地方拠点においてイノベーションを起こす、新たな人材の発掘」に繋がらないためである。したがって、本事業では東海地域ならではの事業機会を生かした、もしくは東海地方のエコシステム課題の解消につながるプログラムの開発を目指すことが肝要である。

つまり、本事業は東海圏の資源を生かし、また東海圏の課題を解決するプログラムの実施を通して、従来事業ではリーチできていない有望な若手人材の発掘・育成を行い、独自のイノベーターエコシステムを形成することが目的である。上記の目的を達成するプログラム設計にあたっては「A.東海地方のエコシステムにおける課題仮説」「B. 東海地方の有望な若手人材を発掘・育成する手法論」の2点の整理が重要だと認識している。

【A. 東海地方のエコシステムにおける課題仮説】(事業目的を達成するための要素①)
※「B. 東海地方の有望な若手人材を発掘・育成する手法論」に関しては、後段の「(1)補助事業の実施方法」にて論述する。

◾️現状の東海地方では、ものづくりを中心とした産業エコシステムが形成されている
まず、現状の東海地方のエコシステムを概観する。東海地方では、トヨタを中心とする強固なものづくりの基盤がある。愛知県では約48兆円の生産規模を誇る製造業を中心としたエコシステムが形成されており、2018年に愛知県で策定された「Aichi-Startup戦略」においても、ものづくり産業を基幹とし、周辺産業(特にディープテック領域)のスタートアップを育成する計画が立てられている。

2019年には愛知県のスタートアップの資金調達額は上半期で全国2位となったが、内訳を見るとそのほとんどがティアフォー、オプティマインドなど自動車産業周辺のテクノロジーを有した企業に集中している。また、このものづくり・ディープテックを中心としてエコシステムを形成する方針は愛知県以外も例外ではなく、同じくものづくり産業を基幹として成長してきた静岡・岐阜・三重においても類似の方針が立てられている。

一方で、ものづくり産業も安泰ではない。日本政府は2035年に「乗用車の100%電動化&純ガソリン車の販売禁止」を発表している。国際的な非営利団体のクライメート・グループによると、EV化への対応が遅れている日本の自動車産業の現状を踏まえた際、「2040年までに自動車輸出の50%、GDP比14%以上、80兆円近い利益が消失」「約180万人の国内雇用が喪失」するリスクがあると言及されている。

従来のトヨタを中心としたものづくり産業は、東海地域のスタートアップにとって大きな事業機会として存在する。一方で、ものづくり産業を前提としたエコシステムを形成することは、万一ものづくり産業が落ち込んだ場合、東海地方、ひいては日本経済ごと斜陽に向かっていくリスクを孕んでいる。

また、ものづくり産業では今あるものを「カイゼン」する文化が根強く、根本課題を捉えてイノベーティブに解決を目指す「問題解決起点」ではなく、今ある技術をベースにカイゼンを行う「技術起点」の指向が根強い。ものづくり起業と取引を行うスタートアップや、学生の採用競争が行われる大学機関でも例外なく、この風土が影響する。これこそが東海地方に創造的な仕事をする人が少ない原因であると捉えている。

もちろん、資金的に潤沢な大手企業が多数あることは東海地方ならではの強みである。日本の今後の経済発展を考えるにあたって、ものづくり産業の聖地である東海地域から、地域企業の協力も受けつつ「ものづくり産業に変わる次の産業」を生み出すことは、次の世代に向けて果たすべき責務と考える。その産業創出にあたって、1つの鍵となるのが「社会課題」であると提起したい。

◾️ものづくり産業に代わる次の柱となり得る、東海地方の「社会課題」産業のポテンシャル
ブラザー工業では、2008年より社会課題に挑む若手起業家を輩出するための「東海若手起業塾」を立ち上げ、運営しており、これまでに63組の社会起業家を輩出している。2005年には、東海地方の社会課題解決の取り組みを実施する創業前後等の団体を対象として、融資・伴走支援を行う「コミュニティ・ユース・バンクmomo」が、20-30代の若手で立ち上げられた。これらのように、東海地域では2000年代より、社会課題に挑むイノベーターを育成・伴走する仕組みが存在している全国でも有数の地域である。

近年、社会課題は産業として年々広がりを見せている。2017年の財務省の試算によると、SDGs関連ビジネスの潜在的な市場規模は世界累計で2,449兆円とされている。社会課題に対する投資である「インパクト投資」の投資残高は、2022年には日本だけでも5兆8,480億円であると試算された。このように、近年社会課題は産業として盛り上がりを見せている。また、2020年にはトヨタ自動車も社会課題解決型の事業開発プログラムを打ち出したように、ESG/SDGsの旗印の元で、大手企業もこぞって社会課題の産業化に取り組み始めている。

これらの現状を踏まえ、大手企業が市場機会として社会課題への取り組みを強化する現状、東海地方に蓄積された社会課題解決人材の育成ノウハウを生かし、地域企業と社会課題に取り組むイノベーターが手を取り合って社会課題解決に挑み、産業化に取り組むサイクルが回っていくエコシステムを形成することこそ、東海地方の課題と事業機会を捉えた、次世代の産業を切り開くために必要なエコシステムではないかと考える。

手前味噌ながら、東海若手起業塾は東海地方で最も長く、16年間にわたり若手社会起業家の輩出・育成に取り組み続けている団体であり、当地域で最も育成ノウハウが蓄積した団体であると考えている。本事業において、弊団体がこれまで蓄積した発掘・育成ノウハウを最大限に活用することで、東海地方に社会課題を起点としたイノベーターエコシステムを立ち上げることが可能であると捉えている。

◾️東海地方ならではのイノベーターエコシステムを形成するために必要とされる要素
社会課題を起点としたイノベーターを発掘・育成を行うに当たって、必要な要素や東海地方で存在する壁を下記のように整理した。なお、作成にあたっては東海若手起業塾の16年の運営ノウハウの中で培ってきた、社会課題解決に取り組む起業家を育成するモデルを参考にした。

提案者である東海若手運営事務局は16年にわたって、社会起業家を育成する「東海若手起業塾」を実施してきた。近年は、メインターゲット層の一歩前段階となる、起業準備中の層や、起業して間もない起業家からのエントリーやエントリーの問い合わせが増加している。

彼らは、ソーシャルイノベーションを起こそうとアクションをする中で、自身のビジネス計画の策定能力やチェンジメーカーとしてのリーダーシップの側面から支援の場を求めているが、現状東海地方には彼らに適したプログラムが存在しない。

つまり、東海地方においては起業前もしくは起業後まもないステージに対する支援プログラムが不足しているという点が、イノベーターが育つエコシステムの形成のネックになっている現状があると推察できる。

また、社会課題を解決するための重要な観点として、「ソーシャルイノベーション(※1)」についても言及したい。現在の社会課題は、多様な要素が複雑な要因に絡まり合って形成されている。「貧困だから食糧を増やそう」といった課題と解決策が一見してわかりやすい問題(シングルイシュー)ではなく、例えば「獣害問題は森林保全機能の喪失に起因する。森林保全は従来里山が担っていたが、高齢化により崩壊の危機にある。少子高齢化の背景には…」といったように、複数の因子が絡まり合った表出として社会課題が顕現する(マルチイシュー)ことが常である。

また、これらの社会課題領域1つとってみても、複層的なステークホルダーが存在し、その相互の関係性の中で課題が生じている。したがって、社会課題の解決の仕組みをつくることは、換言すると「複数のステークホルダーの構造を把握し、解決のツボを特定する仕組みを作ること」だと考えられる。

こうした前提に立った時に、1つの領域に留まることなく、課題領域を構成する複数のステークホルダーについて理解を深めることは、社会課題を事業とする「ソーシャルイノベーション」を促すにあたって、必要不可欠な要素と考える。また、イノベーションは異なる前提・専門分野が交わることで生まれるという前提に立った際にも、「1つの領域に留まることなく、複数の課題領域についての理解を深めること」「異なる領域を持つ他者と協働をすること」の必然性が高いと考える。

翻って東海地方のエコシステムについて考えた際に、エコシステムはある特定の分野(例:ディープテック、テックを保有した学生起業家)ごとに独立して形成されており、また交流する機会やインセンティブも薄い状況にあるため、相互の結びつきが弱いのが現状である。弊団体では、この領域を超える機会の欠如こそが、東海地方に「ソーシャルイノベーション」が生まれづらいボトルネックだと考える。

それらを踏まえて、東海地方における社会課題イノベーターを創出するに当たっての課題は、下記の3点の通り整理される。

〈エコシステム課題〉
①社会課題を起点とするイノベーターのシード・プレシードステージの支援が不足している。
②社会起業家(人材)とそれ以外の領域の接点が少なく、ソーシャルイノベーションが起きにくい。
③社会課題に対する共創による解決(=コレクティブインパクト(※2))へのマインド醸成やネットワークが不足している。

特に、東海若手を運営する中で、異なる分野への知見やそれを取り入れて柔軟な発想をもとに社会課題に対する事業を構築できる(ソーシャルイノベーションを描ける)シード・プレシード層の不足が顕著であることが判明している。そのため、ソーシャルイノベーションを志す若手(18〜35歳)の視座を上げ、多様な視点から事業アイディアのブラッシュアップをすることにフォーカスする。

上述の課題を解消し、ソーシャルイノベーションを生み出せる若手起業家人材の育成とそのエコシステムの構築を目指すために、下記のプログラムを実施する。

※参考:

  • (※1)ソーシャルイノベーションとは
    社会問題に対する革新的な解決法。既存の解決法より効果的・効率的かつ持続可能であり、創出される価値が社会全体にもたらされるもののことを指す。
    つまり、①社会課題に対して、②革新的かつ持続可能な手段で、③社会性の高い価値創造が生まれることをソーシャルイノベーションと定義する。
  • (※2)コレクティブインパクトとは
    現代の社会課題は複雑な問題が絡み合っていることから、1つのサービスやアイディアだけでは解決が難しいため、他の事業者や地域社会を巻き込み、複合的な手段による解決(=コレクティブインパクト)が求められている。そのため、ソーシャルイノベーションを起こすためには、他分野との共創が求められるケースも多い。

以上が、弊団体が考える、当地域において必要とされるエコシステムの課題仮説である。

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